酒米作りは平成10年からのこと

田圃での作業もひと段落して
しばらくは品質検査のための出荷待ちです。

酒米を作り始めたのは平成10年からです。

20代後半で酒屋の仕事を継いで
あれこれと模索する日々が続いていました。

いろんな勉強会やら講習会やらで仕入れたネタを
試してみたり失敗してみたりと
なかなか道筋が見えないまま数年経ちまして、
ふと思ったのは
「うちだけにしかない『柱』になるモン(商品)がほしいよなぁ」

そこから始まりました。

色々と考えを巡らしていく中で
行き着いたのが『らしさ』をいかした商品を扱うと言う事でした。

自分らしさ
塩尻らしさ
田舎らしさ
そこで行き着いたのが
(前にも書きましたが)
自分で酒米を作ってオリジナルの日本酒を仕込む   です。

オリジナル商品というのは
世間的には珍しいことでも目新しいことでもなく
やり方は様々ですが色んなところにあふれていますから
これから自分がやろうとしていることに
価値があるのか
意味があるのか
自問自答もありましたが
今の自分に出来る自分らしい事と言えば
それしかないだろう
と思いました。

そうと決めたら  実行に移すのみ。

「来年の米作りと酒造りにあわせて計画を立てなければ」
米作りも酒造りも年に一回のこと
時期を逃せば丸々一年先延ばしになってしまいます。

平成9年のことでした。

塩尻市内には酒蔵が3件あります。
美寿々酒造の社長さんには普段からお世話になっていたり
年齢的にもちょうど良い兄貴分という感じで
相談ごともしやすいという間柄でした。
ある日、蔵にお邪魔して
「実はこういうことをやりたいんですが・・・・・協力してもらえません?」
少し驚いた様子でしたが
ある程度の量の米が用意できれば大丈夫ということ、
その他に幾つかのレクチャーを受けつつ
前向きな返事をもらうことが出来ました。
収穫から蔵に届くまでの手続きやら流通の方法やら
クリアしなければならない問題も幾つかありましたが
どうやら行けそうな感じです。

蔵によって設備の違いや仕込むタンクの本数
あるいはタンクの大きさ等
仕込みをお願いするに当たっても条件が幾つかあります。
例年よりタンク一本分の手間と時間を掛けるわけですし
毎年決まった計画の中で作業が進みますので
仕込みの流れに関しては蔵元のやりやすい形で
進めてもらえば充分です。
米の量も
「これだけあるからこれで仕込んで下さい」
なんて適当ってわけにはいきません。
出来上がった酒もある程度の本数が無ければ
自分自身「売る努力」しない趣味や片手間の領域では
これも意味の無いチャレンジになってしまうからです。
米も酒もしっかり手を掛けて良い物にすること
一過性ではなく、継続性のある商品として
キチンと成立させること
ここは間違えちゃいけないと思いました。

相談の結果

うちで作っている田圃は約60アールですが
そのうちの30アールを酒米作りに充てることにしました。
「失敗したら大変だなぁ・・・」
なんて心配は     しませんでした。
ワクワク感のほうが大きくて
むしろ楽しみな気分が強かった気がします。

その時点では未だ
造ろうとする酒の設計図や詳細な仕様は決まっていませんでしたが
おぼろげながらイメージは持っていました。

『旨い』酒

きらびやかな  美味さ  ではなく
グッとしみわたる  旨さ

なかなか手が出せない高級な  美味さ  ではなく
いつでも手が届く日常の  旨さ

世の中には色んな種類の酒があって良いですし
いろんな種類・味わいの酒が求められます。
高級な酒・安い酒
繊細な味わいの酒・骨太な酒
飲みやすい酒・個性的な酒

そんな中で
これから造ろうとするタンク一本だけの酒は
緑豊かな田舎らしさと
日常や雑多な中にスッと溶け込める酒にしたい
そんなイメージでした。

あれこれと準備に追われつつ
冬も終わりに近づき
平成10年の春、酒米作りが始まります。